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  3. 【第三回】トップを目指す子どもたちへ。好きな気持ちを原動力に継続すること。それが一流になるためにすごく大事なこと(男子走り高跳び日本記録保持者(2m35) 戸邉直人選手)

2024年07月26日

【第三回】トップを目指す子どもたちへ。好きな気持ちを原動力に継続すること。それが一流になるためにすごく大事なこと(男子走り高跳び日本記録保持者(2m35) 戸邉直人選手)

陸上の男子走り高跳び、日本記録を持つ戸邉直人選手(32)=愛知・名古屋2026組織委アスリート委員=へのインタビュー第3回。

お話は、パーソナルなマイブームや、陸上選手同士の結婚として話題になったパートナーとの関係にも展開していきます。
自身が専門とする走り高跳びの、ツウな観戦者の楽しみ方とは―。

最終回の今回。結びに、トップアスリートを目指す子どもたちへのメッセージも聞きました。






 
最近のマイブームである観葉植物の写真(本人提供)
■ルーティンは決めない

―少しパーソナルなことについても伺いたいと思います。最近のマイブームがあれば、教えてください。

最近は観葉植物にハマっています。休みの日は基本的に体を休めることに集中して、ずっと1日横になっていたりすることが多いんです。部屋に緑を置くと、特にリフレッシュできますよね。ガジュマルとかゴムノキとか、サボテンなどを育てています。


―聞くと落ち着く音楽とか、ルーティンはありますか。

ルーティンと言えば、跳躍競技では観客に手拍子を求めたりすることがありますよね。あれに合理的な意味はないんですが、気持ちを盛り上げるために勝負どころでやるんです。もし、試合で目にする機会があったら、ああ、この選手はここを勝負どころと考えているんだな、と思って見ていただければ。
僕自身は、あまりルーティンを決めていません。というのも、いろいろな国を回って試合をやっていると、どこも環境が違います。「これをする」と決めてしまうと、どうしてもできない場合も出てくる。それが嫌なので。
せいぜい、その場所の有名な物を食べるとか、有名な物を見るとか、そういう観光的なことをするぐらいですね。


―試合の前でも観光や食事を楽しむ余裕があるんですね(驚)

日程によりますが、だいたい3日前とか4日前とかに現地入りすると、1日くらいは自由にできる時間があったりするので。丸1日というわけじゃないんですけど、1時間か2時間ぐらい、ちょろっと観光したりしますよ。


―印象に残っている遠征先がありますか。

モナコがすごく面白い場所でした。とても小さな国ですよね。陸上競技場がモナコの一番端っこにあって、道を隔てた反対側にウォーミングアップ場がありましたが、なんと道が国境で、そちら側はフランス領でした。僕は日本代表になっていろいろな国に行くことを楽しみにしているというか、モチベーションになる方で、海外の方が良い記録が出ます。






 
■二刀流は息抜きに、そして力になる

―トップアスリートの生活と両立して、大学院で博士号を取得されています。競技との「二刀流」は難しくありませんでしたか。

僕の場合は、博士号を取った研究も自分の競技に関する内容だったので。実際、研究は競技場でやるわけではないんですけれど、競技場がすぐ近くに見えるような近くの建物でやっていました。陸上の練習というのは1日の中で長い時間を取るものじゃなくて、長くても2時間か3時間やるくらいの感じです。研究と競技の比率だと、やっぱり研究の方がすごく長くなるんですけど、「研究に行き詰った時に息抜きで練習」「練習の息抜きとして研究」みたいな感じで両立していましたね。


―研究に打ち込んだことで、アスリートとして得られた強みがある。

自分の競技の知りたかったところというか、スポーツバイオメカニクスと言って、要は物理学的に色々分析してメカニズムを探るような研究でした。競技に対する理解が僕なりに深まって、日々のトレーニングにもちろん生きています。
ハイジャンプというのは、(試技で)3回連続して失敗したらそれで競技終了になってしまうわけですが、2回失敗しても3回目で成功すればどんどん生き残っていけます。つまり、修正力というか、試合の中で自分の動きを自分なりに分析して動きを改善していく力がすごく大事なので、研究が力になっていると思います。


―ご家庭のこともうかがいます。奥様(旧姓:新宮美歩さん)もトラック種目で日本一になった元アスリートです。

アスリート夫婦の良いところは、やっぱりいろいろ説明しなくても競技のことを分かりあえるところです。僕の競技はそんなに厳しい減量をするわけではないですけれど、試合の時期にはちょっと体重を絞っていかないといけない局面があります。そういう時の食事の管理ですとか、そういったものは妻も自分の競技でやってたりするので、すごく気を利かせてくれる部分があります。デメリットがあるとしたら…お互い負けず嫌いで、何かを決める時、意見が分かれると全然決まらない(笑)


―あらためて、今お持ちの夢、目標を教えてください。

僕は2年前にけがをして手術をして、まだ万全に戻っていない状態ですので、これをけが前と同じか、それ以上に戻すというのが今の一番の目標です。
その先に来年(2025年)の世界陸上と愛知・名古屋のアジア大会があります。そこにまずは出場して、良い結果を残したいと思います。





 
■「記録と向き合う」面白さ

―そのアジア大会で、初めて走り高跳びを観戦する人もいると思います。アスリートの視点から、観戦の楽しみ方をアドバイスいただけますか。

陸上競技のほかの種目と比べて、という見方になるんですけど、走り高跳びと棒高跳びだけは特別なんです。ほかの種目は全部、アスリートがパフォーマンス(試技)をした後に記録が分かりますね。100m走だったら、走り終わって自分のタイムが出て「ああ、このタイム、この順位なんだな」と分かるんですけど、高跳びだけは「この高さを跳んだらメダルが取れるな」とか「優勝できるな」とか、跳ぶ前に分かる。その記録と向き合いながら、その1本に臨むんです。


―あ、言われてみれば・・・。今まであまり意識しないで観戦していましたが、確かに。それが、独特の緊張感というか、勝負の見え方になるんですね。

選手はそういうのを分かりながら、そして駆け引きしながら、跳ぶ。選手の心情を想像して「あの選手は自己記録に挑戦するから、すごく頑張っているんだな」とか、「この選手は前回優勝していて、連覇の重圧と戦ってこの1本を跳ぶんだな」とか。感情移入して観戦すると、すごく面白い競技です。


■「好き」原動力継続を

―憧れのトップアスリートのインタビューを、目を皿のようにして読んでくれている子どもたちもいると思います。トップを目指す子どもたちにメッセージをいただけますか。

僕は始めたばっかりのころはそんなに強い選手じゃなくて。でも、自分のやっている競技がすごく好きで、だから頑張りたいと思ってずっと頑張ってきたら、その日々の積み重ねの先に、「トップ選手になる」という結果が付いてきました。
スポーツに限らないと思いますが、自分が好きなことというのを、その好きな気持ちを原動力に継続すること。それが、一流になるためにすごく大事なことだと思ってください。







 




取材・構成は、中野祐紀と鈴木雄登が担当しました。

 
戸邉直人(とべ・なおと)選手プロフィール

1992年03月31日生まれ、千葉県出身。JAL所属。筑波大学大学院で博士号(コーチング学)を取得した。自己ベストの2m35(2019年)は男子走り高跳びの日本記録。東京オリンピック(21年東京)、世界選手権(19年ドーハ、15年北京)、アジア大会(18年ジャカルタ、14年仁川)で日本代表。