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2024年07月19日

【第二回】アスリート委員としての強い思い。アジア大会が大きな成功を収め悪い流れを払拭する機会に(男子走り高跳び日本記録保持者(2m35) 戸邉直人選手)

陸上、男子走り高跳びの日本記録を持つ戸邉直人選手(32)=愛知・名古屋2026組織委アスリート委員=へのインタビュー第2回。
高校2年生の時の世界ジュニア選手権を皮切りに多数の出場歴を持つ国際大会の魅力と思い出を聞きました。

アジア大会やオリンピックのように多数の競技が集まる「総合大会」ならではの良いところや、未知の土地へはるばる渡航する遠征の楽しみ方。アジア出身選手同士の深い交流、そして仲間意識―。話題は、さまざま切り口におよびます。






 
■多彩な選手が集う「総合大会」

―アジア競技大会や、オリンピック。多数の競技が集まる国際総合スポーツ大会の魅力を教えてください。

僕は、いろいろな人が集まるのが一番の特長だと感じています。トップレベルで競技をやっていると、各地で世界大会には出場します。ただ、アジア大会、オリンピックという総合スポーツ大会は、普段出ている陸上だけの大会とは全然違って多彩な競技の選手たちが集まってきます。やっているスポーツによって、人の雰囲気や特徴というのは結構違うので、とても面白い。
愛知・名古屋の大会では「選手村」が通常の大会とは違う形となる予定(新規施設を建設せず、既存施設を活用する)ですが、千人規模で選手団が泊るクルーズ船もある計画です。そういう中で生活していると、普通の海外旅行や遠征に行くのでは感じられない多様性を感じられるはずで、僕は大好きな雰囲気です。





 
―初めて出会う、多彩なバックグラウンドのアスリートたちとどんな交流をしていますか。

選手村の中では、首からIDカードを常にぶら下げています。多くの選手が、そこに自分の国やチームのピン(バッジ)を付けていて、それを交換しながらの交流が恒例ですね。だいたいどの大会でも「ピンコレクター」のような選手がいますよ。


―コミュニケーションは英語で。

英語で話すことが多いですが、英語圏でない国が多いアジア大会だと、英語が分からない選手も多いです。でも、意外と身振り手振りで十分なコミュニケーション取れています。例えば、互いに胸元のピンを指させば、言いたいことはだいたい分かりますよね。選手村の交流スペースに卓球台があったりするんですが、そこでは自然に卓球が始まって、言葉の通じない選手とも仲良くなれます。




 
■アジアの仲間との特別な絆

―アジア大会には、アジア中からアスリート仲間がやってきます。

走り高跳びは最近、アジアの選手が強いです。カタールや韓国、中国の選手と一緒に試合をすることは多いですし、それらの国に遠征に行くこともあります。世界大会で同じメンバーで顔を合わせて何度も何度も試合をしていると、友達というか「仕事仲間」という感じになってきますね。
他大陸の強豪選手もひしめく中で、アジアの仲間としていっしょに頑張ろうよ、アジアからメダリストを、金メダルを出そうよ、と。まあ、僕が勝手に感じているだけかもしれないですけれど、やはりそういう意識は持っています。
陸上競技では、世界のトップに近づけば近づくほど「中心はヨーロッパだ」と感じさせられることが多くて。アジアの選手は、誰しもがあちらに「お邪魔して」試合を転戦していくような感じなので、アジア出身者同士で苦労を共有できるみたいな部分もあります。


―特に親交の深い選手は。

東京オリンピック金メダリストのカタールのムタズ・エサ・バルシム選手とはすごく仲良くしています。日本が大好きな人なんですが、日本に来たときはいつも連絡してくれて、一緒に東京観光したりします。
また、東京オリンピックの後に引退した中国の王宇選手とはなぜか縁があり、様々な国際大会で繰り返し宿舎が相部屋になって親密になりました。昨年の杭州アジア大会、僕自身はOCAのアスリート委員として現地入りしましたが、別の仕事で来ていた王選手と選手村でばったり会って、お互い感激しました。国際大会って、あらかじめ計算されていない形で心が動く体験ができる場所、でもあるんですよね。


―私たちの愛知・名古屋アジア大会に向けて、思いを聞かせてください。

まず、選手として出場したいという思いが強くあります。自国でこういう大規模な国際大会が行われるということは、実はすごく珍しく、恵まれたことに間違いありません。ホスト国の一員として、最高の成績を残したいなと思います。それをモチベーションに、これからトレーニングを頑張っていきます。
もうひとつ、今回はOCAと組織委のアスリート委員として、運営側で関わらせてもらっています。大会を作っていく段階からいろいろお話しさせてもらっていますので、大会として大きな成功を収めてほしいと思います。
日本のスポーツ界は今、東京オリンピックでいろいろな不祥事があったこともあって、とても難しい状況にあると認識しています。スポーツイベントに向けられる目がすごく厳しい。愛知・名古屋2026をある種、東京2020のリベンジとして成功させ、悪い流れを払拭するきっかけにしたいという、強い思いがあります。





 
■今まで以上の「開かれた大会」

―アジア大会は、愛知・名古屋にどんなことをもたらすでしょう。

従来通り大きな選手村を設ける大会だと、アスリートは、村と競技会場を行ったり来たりする生活で終わってしまうことが多いんですね。あえて悪く言うと「閉ざされている大会」というか。単純な生活は、選手としては楽な部分もありますけど、あまり街の思い出が残らない大会になってしまうことも多いわけです。
愛知・名古屋2026は、街中に散らばるいろいろな宿泊施設やクルーズ船が選手村になりますから、アスリートが自然にどんどん外に出ていく環境になるのではないでしょうか。もちろん、大勢の応援の人たちもいます。過去大会と比較して、開催都市に素晴らしい多様性をもたらす「開かれた大会」になるんじゃないかな、と楽しみにしています。



 




取材・構成は、中野祐紀と鈴木雄登が担当しました。
最終となる第3回は、最近のマイブームや、走り高跳び観戦の秘訣などを聞きます。

 
戸邉直人(とべ・なおと)選手プロフィール

1992年03月31日生まれ、千葉県出身。JAL所属。筑波大学大学院で博士号(コーチング学)を取得した。自己ベストの2m35(2019年)は男子走り高跳びの日本記録。東京オリンピック(21年東京)、世界選手権(19年ドーハ、15年北京)、アジア大会(18年ジャカルタ、14年仁川)で日本代表。