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  3. 【第一回】日本記録を樹立。記録とケガの狭間で競技を続けてきたのは、やっぱり「好き」という気持ち(男子走り高跳び日本記録保持者(2m35) 戸邉直人選手)

2024年07月12日

【第一回】日本記録を樹立。記録とケガの狭間で競技を続けてきたのは、やっぱり「好き」という気持ち(男子走り高跳び日本記録保持者(2m35) 戸邉直人選手)

194㎝の長身で、軽々とバーを越えていくスマートな「博士」。

私たち愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会(AINAGOC)に、選手の視点からさまざまに助言をくれるアスリート委員の戸邉直人さん(32)は、男子走り高跳びの日本記録保持者です。

東京2020五輪のきらびやかな舞台で決勝に進出し、大学で博士号を取得した「二刀流」のトップアスリート。ただ、五輪後のけがもあり、決して平たんな道のりだけを歩んできたわけではないそうです。

陸上競技との出会いから、プライベートや今後の夢、またアスリートを目指す子どもたちへのアドバイスを聞きました。

全3回で、たっぷりインタビューをお届けします。






 
■出会いは「運動部」

―陸上競技、そして走り高跳びとの出会いを教えていただけますか。

陸上競技は小学校4年生で、走り高跳びは5年生で始めました。

もともとスポーツというか、体を動かすことはすごく好きな子どもだったんですが、僕が通っていた小学校に「運動部」なる部活がありまして。その名の通り、一つのスポーツをやるのではなくて、季節ごとに色々な競技に挑戦するんです。5月、6月ごろは市内の陸上大会があるので、その前の何か月かはみんなで陸上を。夏から冬にかけては男子はサッカー、女子はバスケットボール。そして冬は駅伝…みたいな感じです。
小4で入部して、自分で好きな種目を選べたので、最初は短距離の100m走だったり。体育で走り幅跳びをやったらクラスで一番遠くまで飛べたので、まずは幅跳びを専門に始めました。


―「おれ、ジャンプは行けるな」という感覚があったのですね。

はい(笑)
で、入部してから1年たったころ、幅跳びの練習をしているときに、当時の顧問の先生が「お前、高跳びをやってみたらどうだ」と薦めてくださいました。それが走り高跳びを始めたきっかけです。



 
―現在は194㎝の長身です。当時から背が高かったのでしょうか。

実はそんなに大きくなくて。誕生日が3月31日の早生まれですし、クラスで背の順で並んで一番後ろになったことはなかったです。周りが成長期に入っていくころで「なかなか背が伸びないな」なんて悩んだ時期もあったくらい。競技に関しても、小学生のころは市内大会で7番とか、それくらいの選手で、成長は遅かったんです。
先生に薦めてくれた理由を後から聞いてみましたが、そんな深くは考えていなかったそうです(笑)


―早生まれの子どもたちも勇気がもらえそうです。その後、レベルアップして国内、世界のトップレベルで戦うようになりました。

最初に日本代表になったのが、高校2年生の時の世界ジュニア選手権(2008年、ポーランド・ブィドゴシュチュ)という、20歳未満の世界大会です。2008年、16歳の時ですね。何とか決勝進出、というレベルだったんですが、2年後の同じ大会(2010年、カナダ・モンクトン)で銅メダルを取ることができました。
事前のランキングで3番手か4番手くらいでしたから、頑張ればメダルだな、と思って臨みました。力を出し切れ、良い成功体験になりました。
世界大会でメダルを取れた、というのが自分の中ですごく大きくて、「世界トップを目指したい」という思いが芽生えました。



 
■「無重力感」に惚れた

―競技をやめたいと思ったことや、挫折したことはないのでしょうか。

まぁ…挫折は色々ありました。記録が何年も伸びない時期もありましたし、それこそ2年前、踏切足のアキレス腱を切ってしまって。手術して、そこで引退することも、正直なところちょっと考えました。でも、やっぱり、自分の競技が好きだから継続して、いまもやれています。「好き」がやっぱり一番の原動力です。
つらい時とか苦しい時というのは、「劇的に良くならないかな」と期待してしまうことがありますが、そういうことはなくって。けがが良くならない、記録が伸びないときも、毎日継続していれば、良くないなりに何か日々の成長を感じられることがあります。本当に小さなことですけど、そういうことにこだわりを持って、日々少しずつ成長していくことがすごく大事だと思いますね。




 
小学6年生の時に大会でメダルを獲得し、走高跳を始めたきっかけを作ってくださった先生との写真(本人提供)
―アスリートとして感じる、ほかの競技にはない走り高跳びの魅力を教えてください。

いろいろありますが…僕が一番好きなところは、良いジャンプができると、ジャンプの頂点で無重力感みたいな、ジェットコースターが落ちる時にフワッと体が浮いた瞬間みたいな、そういう感覚を味わえるところですね。
実はそれ、生まれて初めて飛んだ小5の1本目で感じて。急に先生に薦められて、なんだよ、と思いながら飛んで。その無重力感を追い求めて今までやってきたみたいなものです。


―ちなみに、それは小学生がよくやる「挟み跳び」で、ですか。

いや、最初は何も教えられずに「跳んでみろ」って言われて。その当時、僕はテレビの映像とかで背面跳びみたいなものしか見たことなかったんで、見様見真似で背面跳び「みたいな」跳び方しました。多分形にはなってなかったと思いますけど、でもとりあえず後ろから飛んだんです。1本目で惚れちゃいました。



 




取材・構成は、中野祐紀と鈴木雄登が担当しました。
第2回は、国際大会の思い出と魅力について聞きます。

 
戸邉直人(とべ・なおと)選手プロフィール

1992年03月31日生まれ、千葉県出身。JAL所属。筑波大学大学院で博士号(コーチング学)を取得した。自己ベストの2m35(2019年)は男子走り高跳びの日本記録。東京オリンピック(21年東京)、世界選手権(19年ドーハ、15年北京)、アジア大会(18年ジャカルタ、14年仁川)で日本代表。