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2023年06月20日

【第二回】自然体で挑んだ大舞台で夢の金メダルを獲得(2016リオデジャネイロオリンピック レスリング女子69kg級 金メダリスト 土性沙羅さん)

中学、高校と幾多の大会で全国制覇を成し遂げるなど頭角を現した土性沙羅さん。各世代で日本代表選手として選抜され、国際大会でも数々の輝かしい成績を残してきました。
第二回のインタビューでは、世界を舞台に戦ってきた土性さんならではの葛藤や、勝利を引き寄せたメンタル術、国際大会ならではの楽しさなどを語っていただきます。



 
Interviewer
数々の国際大会に出場されています。海外で戦う上で心がけていたことはありますか?

土性沙羅さん
もともと海外の大会に対してそれほど苦手意識はなく、特別心がけていることはありませんでした。強いて言えば、水道水は絶対口にせず、歯磨きなどもペットボトルの水を利用するという基本的なことぐらいです。胃腸も丈夫な方なので、現地の料理を食べることも楽しみの一つでしたね。

Interviewer
プライベートで、もう一度行ってみたい場所はありますか?

土性沙羅さん
フランスのパリです!
大会期間に入ると、それほどトレーニングを詰め込むこともなく、フリーになる時間が多かったので、時間にゆとりがあるときはよく遠征先の町を散歩していました。
なかでもパリは、町並みがとても綺麗で印象に残っています。ぜひプライベートで旅行してみたいですね。

Interviewer
思い出深い大会はありますか?

土性沙羅さん
やはり、金メダルを獲ったリオデジャネイロオリンピックです。初戦に臨んだとき、自分でも驚くほど体が動いていて「今日はいける!」と手応えを感じました。
レスリングの選手人生を通じて、後にも先にも、あのときほど絶好調の大会はなかったですね。

Interviewer
それまでの大会と比べて、何か変化があったのでしょうか?

土性沙羅さん
心の余裕を持てたことだと思います。
もともとすごく緊張するタイプだったこともあり、試合に挑むときは、常に自分の世界に入り込んで集中力を高めていたんです。周りの人に対して「声をかけないで」というオーラを出して、シャットアウトしていました。
でも、思うような成績が出ない私を見かねたコーチから、試合前に自分を追い込むような集中の仕方は辞めなさいと言われたんです。




 
Interviewer
オリンピックという大舞台で、これまでのスタイルを変えることに抵抗はなかったのですか?

土性沙羅さん
リオデジャネイロオリンピックは、4大会連続金メダルという偉業に挑む大先輩と同部屋だったことにも救われました。
その選手は4連覇という大きなプレッシャーのかかる状況であっても、朝起きたときからすごくリラックスしていて「よし、頑張ろう~」という感じで、緩いテンションだったんです。
その姿を見て「そうか、普段通りでいいんだ。自分がやってきた練習を信じよう」と思うことができて、肩の力が抜けていくのを感じました。
気負いすぎることなく、周囲の人と会話をしたり、笑ったりしながら、試合前の時間を自然体で過ごしていたら、気持ちがすごく楽になりました。

Interviewer
国際大会ならではの発見や楽しみがあれば教えてください。

土性沙羅さん
いろいろな国や地域から選手たちが集まるので、試合前のウォーミングアップの仕方やトレーニング方法など、選手やチームごとの違いを知ることができて新鮮でした。
また、海外選手の髪型にも注目していました。編み込みなど独特のヘアスタイルの選手もいて「どうやって編んでいるんだろう」と気になっていましたよ。
ただ一つ後悔があるとすれば、英語をもっと勉強しておけば良かったということ。簡単な会話程度でも良いので身に付けておけば、海外の選手ともっと気軽に交流できたかもしれないという心残りはあります。


 
Interviewer
世界レベルで勝ち抜く条件や、トップアスリートに共通する点はどのような部分だと感じますか?

土性沙羅さん
負けず嫌いであることと、練習量の多さではないでしょうか。「負けたくない」、「勝ちたい」という執念から、人一倍練習を重ねる。その繰り返しで強くなっていくのだと思います。
さらに私の場合は、身近に強い選手がたくさん集まっていた環境も大きなアドバンテージでした。世界レベルの選手に囲まれながら、練習に向き合う姿勢や闘志を肌で感じ、常に刺激を受けることで「自分も強くなりたい!」と高みを目指すことができました。

Interviewer
弱気になったり、挫折しそうになったりしたことはないのですか?

土性沙羅さん
選手人生の中で一番辛かったのは、左肩を手術したときです。左肩の亜脱臼を繰り返していたこともあり、東京2020オリンピックの前に手術する決意をしました。
手術さえすれば完全に治って元通りになると信じていたのですが、手先にしびれが残ったり、感覚が鈍ったりと思うように回復しませんでした。けがが治った後も、頭が痛さを覚えているから、タックルするのが怖くなってしまったんです。

Interviewer
どのように乗り越えたのですか?

土性沙羅さん
けがが回復するまでは母が常に寄り添って、献身的にお世話をしてくれて。当時所属していた職場の方々からの励ましの言葉にも、すごく支えられました。
練習できるようになってからは、タックルに入れない恐怖心を拭い去るために、ひたすら練習を繰り返しました。
自分自身に「大丈夫」と言い聞かせて練習を重ねるうちに、少しずつ勇気を持てるようになり、自信を取り戻していきました。



 
Interviewer
けがを克服して挑んだ東京2020オリンピック。どのような思いでしたか?

土性沙羅さん
地元開催という楽しみや高揚感を感じながらも、モチベーションを保つことに苦心しました。
東京2020オリンピックに間に合わせるために手術をして復帰までのスケジュールを組んでいたのですが、コロナの影響で1年延期になってしまった。2連覇がかかった大会ということもあり、プレッシャーを感じることがあったのも事実です。
ただ、いざ大会の日になれば、日本というホームグラウンドで戦える喜びと誇らしさに満たされていきました。
控え室から試合会場へと続く通路では、ボランティアの方々から日本語で激励をしていただき、みなさんが口々に「頑張って」と声を掛けてくれて、母国ならではの歓声や応援がすごく励みになりましたね。




 

リオデジャネイロオリンピックは気負いすぎず、試合前の時間を自然体で過ごすように気持ちを切り替えたことが、金メダルにつながりました。



数多の国際大会で華々しい成績を残した土性さん。しかしその陰に、心の葛藤やけがとの闘いなど、様々な苦悩や苦難があったということを知りました。穏やかに話す言葉の端々に、トップアスリートとして闘い抜いてきた熱い闘志を感じます。


第三回 2023年6月27日(火曜日)掲載記事につづく>